「現場の声」を重視したデジタル×デザイン~消防団の報告事務デジタル化~
皆様こんにちは。横浜市デジタル統括本部です。
皆様は「消防団」をご存じですか?
横浜市内には多くの消防団があり、皆様の安全・安心を担ってくださっていますが、本日は、消防団の活動におけるデジタル化の取組についてお伝えします!
横浜市に暮らす皆様の生活は、行政だけではなく、自治会町内会や民生委員、消防団やボランティアの方々など、様々な「地域の担い手」と呼ばれる皆様との協働によって支えられています。
横浜DX戦略においても「デジタル技術を活用した地域の担い手支援」を掲げており、地域の担い手の皆様の負担軽減や課題解決、魅力の発信等の検討を進めていますが、今回の取組はその第一弾となります。
消防団とは
まずは、横浜市の消防団について簡単にご説明しましょう!
消防団とは、地域に火災や災害などが発生したときの消火・警戒などの消防活動を行う団体です。そこで活動する消防団員は、普段はご自分の職業や学業、家業等を持ちながら、平常時には地域の防災指導や訓練、災害発生時には消防活動を行うなど、「地域防災の担い手」として活動していただいている、非常勤特別職の地方公務員ということになります。横浜市では全20消防団、約8,000人の消防団員の方々が活躍されています。
横浜市消防団について詳しく知りたい方はこちら↓をご覧ください。
活動における課題
消防団員の方々には、災害活動や訓練等に従事した際に一定額を「出動報酬」として支給しています。しかし、その元となる「活動報告書」はこれまで紙ベースで作成していたことから、各団員は活動毎に手書きで報告書に記入し、班長・分団長・団長から消防署まで、手渡しや郵送で提出していただいており、報告書作成のための時間や交通費など、団員の皆様にかなりのご負担をおかけしているという課題がありました。
昨年度、消防局からデジタル統括本部へ「デジタルを活用してこの課題を解決できないか」とご相談があり、結果的にスマホアプリが有効ではないかという発想を得たことが本プロジェクトのきっかけです。
さっそく他都市の事例を調べてみたところ、消防団アプリの活用実績はあるものの、求める課題解決を実現できるものはなかなかない…ということがわかりました。そこで昨年度、本市の共創フロントを通じて事業者の皆様からの提案を募集させていただき、ご提案をいただいた事業者と協定を締結した後に、実証実験という形で本市が求める機能を持つアプリの検証を進めました。デジタル統括本部としては、消防局と事業者の「橋渡し役」として、プロジェクト管理や仕様書作成等の支援を実施しています。
実証実験の進め方
実証実験では、6消防団にご協力いただき、プロトタイプのアプリを現場の消防団員の方々に使ってみてもらいました。当初は、活動毎に紙で提出していただいていた内容をそのままアプリで記入するような形を検討していましたが、せっかくデジタル化するのであれば、これまでの消防団活動ではできていなかった効率化実現や価値創造をしないともったいない…!
そこで原点に返り、活動報告を提出していただく「目的」から見直した結果、最終的な目的である「活動への参加状況確認」に帰着し、事前に活動予定を作成(災害出動の場合は出動メールから自動作成)した上で「GPSの位置情報を使って、現場に到着すると自動的にチェックインされる」という機能を導入することにより、活動に参加しなかった班長も、誰が活動に参加したかがすぐ分かるような仕組みにしました。「自動的にチェックイン」というのも、「スマホの操作が苦手」「現場では手袋をしているし、周囲の目も気になるのでスマホを触りづらい」といった、利用者目線での検討によるものです。
また、実際の地域防災の担い手である消防団員の方々の「現場の声」を重視し、ヒアリングやアンケートを複数回実施しました。
アプリを作成する中で色々なアイデアを盛り込んでいくと、ついつい「いろいろなことができる多機能アプリ」を目指してしまいがちですが、必ずしもそれが「ユーザが本当に必要だったもの」になるとは限りません。
ヒアリングやアンケート結果では、「本当に必要な機能をより簡単に」といった声があがってきたので、リリース時の機能は活動報告に関する機能に絞りました。
また、現場の声を受けて新たに追加した機能もあります。消防団員の方々は短時間で確実に対応しなければならないため、「参加可能な班員の把握と必要事項の確実な伝達」に苦心されていることが分かったので、活動毎にやりとりができる「グループチャット」の機能を追加しました。機能毎に作業時間を計測できる機能も搭載したので、今後はそういったデータも元にしながらブラッシュアップを続けていく予定です。
結果として、単純に紙をスマホに置き換えただけで終わるのではなく、プロセス全体のデジタル化や消防団活動自体の変革までつなげることができる可能性を持った、まさに「デジタル×デザイン」の実践例と言える事例になったのではないでしょうか。
今後は、実証実験の結果も参考にアプリの開発と研修を進め、令和5年2月には先行6消防団で正式運用を開始、令和5年4月には全20消防団へ展開していく予定です。活動報告事務の機能をもったアプリの本格導入は政令市初となります。
なお、今回は協定による実証実験という形で、フィールドを提供することで費用負担することなくアプリを開発しました。あえて汎用性をもたせたアプリとすることで、本市としては「サービス利用」という形で導入しつつ、アプリを事業者が他都市へ展開することも可能となっています。本市の政令市としてのフィールドを活用することで、事業者にとっては販路が広がり、他都市にもメリットを享受していただけるようなスキームを構築することができました。
最後に
本プロジェクトが先行事例として前に進んでいるのは、「消防団の方々の負担を少しでも減らしたい」という消防局の熱意や、「導入するなら少しでも良いものにして、活動に注力したい」というご協力いただいた消防団の方々の熱意あってこそだと感じました。何かを「変える」というのは本当に難しいことです。デジタル統括本部としては、これからもそういった熱意ある「現場の声」を大事にしながら、「デジタル×デザイン」で本市におけるDXを広げていければと思います。