見出し画像

横浜市西区からDXを推進!デジタル区役所・モデル区の篠村貴弘係長に聞く。

横浜市のDX、デジタル区役所モデル区プロジェクトって?

 横浜市は、“デジタルの恩恵をすべての市民、地域に行きわたらせ、魅力あふれる都市をつくる”ことを基本目的として、2022年9月に「横浜DX戦略」を発表しました。

 その中で、「書かない・待たない・行かない そして つながる」をコンセプトに、「デジタル区役所」の推進を掲げており、18区のうち西区と港南区はデジタル区役所の「モデル区」として選ばれています。

2022年9月発表の横浜DX戦略(左)と西区デジタル区役所モデル区プロジェクト ロゴマーク(右)

 モデル区は、デジタル技術を使って区役所の業務や手続きを効率化し、さまざまな実証実験を進めるなど、横浜市全体に広げるための先導役を果たしています。

 今回は、西区のデジタル化を中心となって進めている篠村貴弘係長に、区役所でのDXの進め方や現場の様子をお聞きしました。自治体や企業で、DX推進に関わっている方々に参考にしていただければ幸いです!

横浜市デジタル統括本部デジタル・デザイン室担当係長・西区区政推進課担当係長 篠村貴弘さん

 篠村さんは、2001年に横浜市に入庁しました。健康福祉局や建築局で働いた後、西区に異動。西区では税務課と総務課で合わせて7年間勤務しました。ITの専門家ではありませんが、事務の業務で培った知識や調整力を活かしています。昨年からは、西区とデジタル統括本部の両方に所属し、西区デジタル区役所モデル区プロジェクトのファシリテーターを務めています。

「デジタル技術に関する知識の有無は重要ではないと思います。役立っていると感じるのは、7年間、西区で従事し、現場に詳しかったことですね」と篠村さんは言っています。長く西区にいたことで、初期の業務改善から立ち合い、コロナ禍での感染対策、そして現在に至るまで、細やかに対応することができたと振り返ります。

西区がモデル区に選ばれた理由

西区は、商業施設や観光施設が多く発展を続ける地域とが共存する「温故知新」のまち 

 西区は18区の中で最も小さく、人口も最も少ない区ですが、横浜駅周辺やみなとみらい21地区など、横浜を代表するエリアを含んでいます。このように都市部としての特色が強いことが、モデル区に選ばれた理由のひとつです。

 モデル区に選定される前から、西区では入念な準備が行われていました。

 2021年12月「モデル区準備会」を立ち上げ、区職員の意識を高めるためのスローガンの策定や、全課へのヒアリングを行いました。ヒアリングでは、135件の課題が挙がり、デジタル化による業務改善のための方向性が明らかになりました。

概念図 モデル区準備会で策定された、西区プロジェクトのスローガン

西区がモデル区になるまで

 2018年、西区に元・しごと改革推進部の寺岡洋志区長(2022年3月末まで)が就任したことが、区のDX元年となりました。

 当時、総務課で予算調整係長だった篠村さんは、現場の担当として区長の意向を直接聞くこともありました。

 最初に手をつけたのは、部課長会のペーパーレス化でした。

「たまたま、防災用のAndroidのタブレットがあって、それを使って『紙なし』の部課長会をやり始めたことがスタートでした。まず管理職が業務改善にやる気を示すことで、庁内を引っ張っていこうとした」と、篠村さんは当時を振り返りました。

2021年6月、無線LANの試行導入によって全区に先駆けてペーパーレス会議が実現

 それからモデル区準備会発足までの2021年末までに、機器故障による情報紛失リスクの低減と経費削減を目的に、課ごとに管理していたファイルサーバーの一元化。来庁者向け広報の強化と歳入確保を目的に、広告事業を活用したデジタルサイネージの設置、庁内にお客様用のフリーWi-Fi整備、オンライン会議用の高速Wi-Fi整備、YCAN無線LANの試行導入など、インフラの面からデジタル機器を活用した業務改善に取り組みました。

――コロナ禍での加速

  そんな中でコロナ禍に突入していきました。窓口業務や会議など非接触での感染対策が急務となり、アクリル板や消毒液の設置、テレワークやオンライン会議など、これまでの業務の課題を全面見直しする機会を得たと同時に、デジタル技術の活用は加速しました。

コロナ対策として全館に設置した、非接触で開閉するトイレの自動ドア

 モデル区準備会が発足して約半年後、西区がモデル区に選定され、2022年5月にプロジェクトが本格スタートしてからは、篠村さんはデジタル統括本部・デジタル区役所担当と西区区政推進課を兼務した立場でプロジェクトを進めることになり、行政のDXはあらたなフェーズを迎えています。

区庁舎敷地内に作られたデジタルの環境整備モデルルーム(外観)
区庁舎敷地内に作られたデジタルの環境整備モデルルーム(内観)実際に使用できる。

 現在、篠村さんは、西区役所全体を巻きこみ、デジタル技術を活用するプロジェクトの立ち上げや、実証実験を繰り返し行っています。昨年(2022年)は実際につぎのような取組を行いました。

 <2022年度の主な取組と成果(一例)>

■「どこでも区役所」=地区センターでのオンライン窓口やオンライン相談概要:来庁にかかるコスト(時間・交通費)を軽減、利用者側の時間の制約を軽減、高齢者等デジタルが苦手な方を含め一定のニーズがあることを確認。
展開:育児、福祉保健、法律などの相談で、対⾯では負担が大きく、電話では不⼗分、といった場合にオンライン対応の価値が最⼤限発揮される。必要とされる対象に検証を継続していきたい。

藤棚地区センターでオンライン対応の実証実験

■「書かない窓口」=マイナンバーカードによる申請書自動作成システム
概要:来庁者の申請書作成の負担感の軽減、マイナンバーカード普及啓発につながる活用の創出。
展開:時間削減の効果が確認できたため、税務課、⼾籍課での対象事務で活用、実施期間の拡⼤、他課他区への展開の検討を進めたい。

書かない窓口の実証実験では2つの異なるケースを想定して2つの端末を使用した。

■防災機能強化=AIを活用した情報収集、QRコードを活用した避難者情報の受付管理
概要:避難所受付に掲⽰されたQRコードをスマホ等で読み取り、避難者⾃⾝が情報の⼊⼒、集約等に要する時間を計測し、効果検証。
展開:データ収集後のシステム間のデータ連係等も含め、効果検証の上、今後の展開を検討していきたい。危機管理室との連携を強化していく。

避難所での実証実験のようす

■会計年度任用職員の勤務実績管理=システム構築
概要:会計年度任⽤職員の出退勤管理のデジタル化(⾃動打刻)、同⼀の情報に係る⼊⼒作業の重複解消、⼿作業の⼯程削減によるヒューマンエラーの最⼩化
展開:庁内ニーズが非常に高く、他区横展開へ向け総務局と調整を進めたい。

会計年度職員の勤退実績管理システム


DXの難しさ

  現在、西区のモデル区プロジェクトは、準備会をもとにした7つのチームに移行し、課題ごとに本格稼働しています。

  プロジェクトメンバーは他都市(平塚市、川崎市など)の視察や意見交換で情報収集を進めるうちに、「DXでは仕事や意識の変化が必要だが、現場では様々な事情によって即時的な対応が難しい」と多くの職員が感じていることがわかりました。

会議後リラックスムードで語り合うプロジェクトメンバーたち。

 たとえば、お客様の書類作成にかかる負担を減らす実証実験を行い、お客様の負担は減りましたが、書類提出後の職員の事務処理については、業務改善に着手できていません。事情としては、現場職員の変化に対する心理的な負担への配慮のほか、システムの標準化という大きな変化が予定されていることなどがあります。

 篠村さんは、この状況について「業務の改善は難しいです。まだできていないところが多いです」と話してくれました。横浜DX戦略という大きな目標に向かって、率先して壁を壊し、行動変容を促すという大きな使命がモデル区プロジェクトメンバーにのしかかっています。

 一方で、動画コンテンツの活用による電話応対の効率化については、区民と職員の双方に効果を確認できました。

 「健診券の払戻しの方法」について、お客様に口頭でお伝えしている説明内容を動画化・公開し、お客様からお問合せがあった場合に、その動画をご案内することで、説明時間を大幅に短縮するというものです。

 これは職員の業務時間を生み出すだけでなく、お客様からも必要な情報を好きなタイミングで繰り返し確認でき、メモを取る必要も無くて便利と好評を得ています。

 そうした行動変容を促す事例もあって、動画コンテンツ・チームはこれからもさまざまなアプローチからの改善を積極的におこなっていきます。

 

モデル区を中心に成果を横展開

  横浜市では、区(現場)と局(全体運営)が連携して、モデル区を中心として、成果の横展開を進めています。

 「局と区、両方からアプローチしています。予算を管理する局の人と、区に勤務する人が連携し、現場で起きていることを理解しながら、具体的に必要な仕事を進めていける。そうしたなかでデジタル区役所モデル区としての成果を少しずつ発信できていくと思います」

 去る4月24日、西区庁舎で、令和5年度のデジタル区役所モデル区プロジェクトのメンバーを募る説明会が行われ、庁内の複数の課から35人が参加しました。

4月24日 西区プロジェクト説明会

 デジタル統括本部より、モデル区のこれまでの取組みや、今後の方向性などについて説明があり、現場との質疑応答や、課題へ向けた取り組み方法についての率直な意見交換が行われ、閉会後も一部の参加者で議論がつづきました。

 「皆さんよく話をきいていたようです。中には熱く反応する方もいましたが、現場からの大切な意見です。これからも、多くの職員を巻き込んで進めていきたい」と、説明会を準備した篠村さんは手ごたえを感じていました。

さいごに

  篠村さんはつぎのように話しています。

 「やはり、現場感覚だと思います。現場の課題をしっかり把握することに加え、現場の人間がどんなことを感じ、考えているのかを把握し、現場の課題感に寄り添いながら進めることが重要。業務効率の向上につながる先進的なツールは様々あるが、ただ単にそれを持ち込んでも現場の人には使ってもらえない。現場の人が価値を感じられる、現場の人に求められることを大事にしていきたい。また、現場の課題解消は、お客様への新たな価値の提供につながることを常に意識し、その意識をプロジェクトメンバーとも共有しながらこれからも取り組んでいきたい」

西区役所

 篠村さんが中心となって進めてきた西区のデジタル化についてご紹介しました。
 区役所のデジタル化のカギは、現場の声に耳を傾け、現場に寄り添い、共感をしながら、関係者全体を巻き込んで、皆で進めていくことであることがわかりました。
 課題を乗り越え、多くの成果を出しつづける姿に、デジタル区役所モデル区から、全区にデジタル化が波及していく予感がします。横浜市のDXにご期待ください!